『熱砂の三人』ウィルバー・スミス 文春文庫[Amazon]

時代は1935年、帝政エチオピアを、ムッソリーニ率いるイタリアが虎視耽々と狙っている。武器の輸入を禁じられているエチオピアに、アメリカ人の優秀な機械工であるジェイク・バートンと、武器商人で元イギリス軍少佐のギャレス・スウェールズは、イッカク千金を狙って、古ぼけた4輌の装甲車を運び込む仕事を受ける。その旅に加わるのは、イタリアの暴虐を世界に伝える使命に燃えるジャーナリストのヴィッキー・カンバーウェル、エチオピアの有力な部族の若者であるグレゴリウス・マリアム砂漠を舞台にした冒険と、イタリア軍を相手にした闘い、全てが血湧き肉踊る。これぞ、エンターテイメント。これぞ、冒険小説。

むかし懐かし、古き良き時代の冒険小説といった感じです。男はハンサムで強く男らしく、女は美人でグラマーで感情的、道化はひたすら道化しているし、老人は元気だし、美少女は颯爽としている。思いっきりハリウッド的な人物造形ですが、そこがまた気持ちいい。唯一知っている英語「ごきげんよろしゅう」を連発するひたすら威勢がよくて、おまけにヴィッカーズ機関銃をぶっ放すエチオピアの有力部族の長の老人と、女ったらしで、クールで皮肉家、おまけに優秀な戦略家のギャレスとの掛け合いも楽しいし、これほどの道化役は珍しいほどの、イタリア軍大佐アルド・ベッリ伯、ヴィッキーをめぐるジェイクとギャレスの恋の鞘当て、男ふたりの友情、それぞれにレディの名をつけられ敬われる古ぼけた4輌の装甲車と、剽悍な騎兵でもって、イタリア軍の機械化部隊と闘うのも面白い。もうとにかく何も考えずに楽しんで、という作者のエンターテイメント魂が炸裂した、浪漫あふれるこの作品を、どうぞお楽しみ下さい。


熱砂の三人 (文春文庫)

熱砂の三人 (文春文庫)