『スティル・ライフ』池澤夏樹 中公文庫[Amazon]

「外に立つ世界とは別に、きみの中にも、一つの世界がある。きみは自分の内部の広大な薄明の世界を想像してみることができる。きみの意識はふたつの世界の境界の上にいる。大事なのは、山脈や、人や、染色工場や,せみ時雨などからなる外の世界と、君の中にあるひろい世界との間に連絡をつけること、一歩の距離を置いて並び立つ二つの世界の呼応と調和を図ることだ。たとえば、星を見るとかして。二つの世界の呼応と調和がうまくいっていると、毎日を過ごすのはずっと楽になる。心の力をよけいなことに使う必要がなくなる。水の味がわかり、人を怒らせることが少なくなる。星を正しく見るのはむずかしいが、上手になればそれだけのこうかがあがるだろう。星ではなく、せせらぎや、せみ時雨でもいいのだけれども」


この序文を読むとわたしはいつも瑞々しい気持ちに浸れます。そして世界をまた新鮮な気持ちで受け止められる。

呼応と調和、衛星軌道上からの眺め、希薄で存在感のある世界、星と直結した心、全てがただ「在る」。そして感じます・・・池澤夏樹さんは、理知的で硬質な文体で、ファンタジー、存在する自然との在り方、人間のもつ知と感性、世界のもつ諸相と発見、と本当に様々なことを感じさせてくれます。

スティル・ライフ (中公文庫)

スティル・ライフ (中公文庫)