『象と耳鳴り』恩田陸 祥伝社

驚きました。恩田さんが、こんなに本格に思い入れがあるなんて。元裁判官の主人公と息子の検察官の関係もエラリー・クイーンを思い起こさせる設定で面白いですし、相変わらず、キャラも立っています。
一編一編の仕掛けもなかなかの出来栄えで、散歩好きな僕には「給水搭」なんかタマラナイですし、ケレルマンの「九マイルは遠すぎる」をモチーフにした「待合室の冒険」もニヤニヤしながら読めました。アンセル・アダムスの写真をモチーフにした「ニューメキシコの月」も、少々強引ですが、テーマの帰結が素晴らしい。「廃園」も、郷愁という想いは、残酷というテーマを常に内包していることがあるという彼らしい作品ですし、「魔術師」は、まさに恩田さんの作品といえるテーマを内包したものでした。この作品集の終わりにふさわしいものですね。いやいや、感服しました。