花の下にて春死なむ講談社文庫

三軒茶屋駅近辺にある香菜里屋に、客が持ち込む事件を、マスター工藤哲也が解き明かす連作短編集です。
孤独死した老俳人の住む窓辺の桜は、なぜ季節外れの花をつけたのか。老俳人の過去から導き出される人生とは。駅においてある本棚のなかにある山本周五郎の文庫に必ず挟んである家族写真は、どんな思いが隠されているのか?回転寿司屋で鮪ばかり7皿も食べる客、これにはどんな意味があるのか?俳句、家族写真、多摩川、写真展、老い、交流、都市伝説、赤い手、正岡子規、といった題材と謎を巧みに配した作品集は絶品です。度数を変えたビールが4種類あり、マスターが、今日はいいものが入っているんですと言って出す、実に魅力的なつまみ(美味しそうな描写です)、そして客が語る謎、人の気持ちにするりと入り、謎を見事に解き明かすマスター。文も構成も人も、文句無し!!人の生と死、苦さ、悲哀が心にぐっと来る実にいい短編集です。

花の下にて春死なむ (講談社文庫)

花の下にて春死なむ (講談社文庫)