時計を忘れて森へいこうクイーンの13

八ヶ岳山麓の高原の町である清海に越してきた十六歳の高校生、若杉翠は地元にあるシーク協会という環境教育グループの自然解説指導員、深森護と知り合い、シークに顔を出すようになる。そこで会う人々、森、日常が彼女の視点で描かれています。

わたしにとって、「森」とは、少年の頃の記憶、小さな野獣の本能(笑)、そう、「森」は記憶にある存在であって、今のわたしの刻にはありません。だからこそ、「森」と共に今を生きているこの物語の住人たちに色々な思いを重ねてしまいます。とにかくこの物語の住人たちが最高です。いつも少し悩んでいて、困っていて、でも生きることを愛している。そして太陽と、草木と穏やかな交流をしながら、事実を織り物語りにして、人の心に届く真実を伝えることができる護さん。(お見舞いに大根を持っていくような素敵な人です)生まれも育ちも大阪、二十歳になるまでフォッサマグナを越えたことがなかった経歴の、きらきらした目と、好奇心の強さが森のねずみに似ていると主人公に表されている女性レンジャーのこずえさん。護さんや周りの人々、森や自然から、色々な経験を得て、感性や心を成長させていく、のんきで、「今を生きている」素敵な女の子翠さん。そして周りの、あたたかく、もちろん生きる辛さも知っている、森や人に癒される、「生きている」人たち。自然の一瞬を切り取った確かで綺麗な描写も、人に対する視点もすごく共感を抱かせてくれます。物語の住人も、そして読者も笑って、泣いて、癒される。
今の自分の「森」と出会いたくなる。そんな物語でした。本当に、絶対、お勧めの、この物語。

時計を忘れて森へいこう (クイーンの13)

時計を忘れて森へいこう (クイーンの13)