『ストリート・キッズ』ドン・ウィンズロウ 創元推理文庫[Amazon]


元ストリートキッドでプロの探偵に仕込まれ、今はコロンビア大学院に通う、ニール・ケアリーのもとに、彼を支援する朋友会からある依頼がされる。その内容は、民主党全国大会で副大統領候補に推される予定の上院議員の行方不明の娘を探し出すといったものであった。彼女の最後の消息はロンドン、ニールの長く切ない夏のはじまりだった。

なんて…作品なんでしょう。切なく爽やかで、ユーモアがある文体と物語、かつてない共感を呼ぶ主人公のニール。様々な魅力を併せ持つ、かつてない探偵物語です。第一部では、ニールによる事件の聞き込みと、11歳のときに出会い、彼の父親代わりとなる朋友会の雇われ探偵グレアムに、探偵としてのいろはを叩き込まれながら、成長する様が描かれます。尾行術、家捜し、探偵としての技術を、ニールとグレアムは、お互いに減らず口を叩きながら、一方は懸命に学び、一方は、自分の生き方と技術を与えていきます。そして、ふたりは徐々に信頼関係を築いていき、父さん、坊主と呼び合うようになる。ふたりの心地よい距離感と、減らず口がとても愛しく感じます。第二部・三部での、ロンドンでの捜査、暗黒街、ヤク、パンク、元ストーリトキッドとしての本領、ヒロインであるアリーとの交流、心臓の鼓動、静けさ、母の幻影、苦悩、全てが、ニールに共感を抱きながら読み勧められます。本を愛し、英文学の教授を目指し、ストリートでの生き方と、父さんから学んだ技術、探偵としての才能、持ち前の減らず口と、ナイーブな心。ニールの心、言葉、行動、全てが切なく、愛しく、共感を呼びます。物語全体を覆う色調は、くさいことを承知で言ってしまえば、切なくなるような蒼く広い空。同じ色調が、空全体に広がっていく、そんな切なさと開放感です。

ストリート・キッズ (創元推理文庫)

ストリート・キッズ (創元推理文庫)