物語として、その力故に僕自身が影響を受けたと言える作品がいくつかある。そして物語としてではなく、宇宙として傍らに寄り添って指針となる作品がある。僕にとっては『スティル・ライフ』池澤夏樹 がその第一だ。「ひょっとしてチェレンコフ光が見えないかと思って」グラスの水を見ていてこんな宇宙が飛び出す。それが軌道上の世界にいる心のかたちのひとつ。
『スティル・ライフ』では、主人公は染色工場でバイトをしている。そして、『からくりからくさ』では、中心の登場人物は染色をなりわいとしている。前者は変わりゆく色と世界の輪郭をリンクし、自己の意識の拡散のかたちを描き、宇宙との直結の方法論を示し、後者は自然から加工する、女が織り込む糸と、絡み合う土から生じた人の連綿の血、宿縁、その人々が生み出した造形物、キリム、能面、そして人形、それぞれが登場人物の4人の女性の葛藤とともにひとつの結界としての家、昇華を描き出している。
- 作者: 梨木香歩
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2001/12/26
- メディア: 文庫
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