3月の読了本

  1. 文人悪食』嵐山 光三郎 新潮社

文人悪食 (新潮文庫)

文人悪食 (新潮文庫)

それぞれの文人たちの食欲・愛欲のエピソードは非常に面白くその欲や業に圧倒される。そしてその時代ならではの背景も面白い。森鴎外の饅頭茶漬けのエピソードは聞いたことがあったけれど、その背景には自身の医学者としての背景、衛生感覚、細菌への忌避感から熱を通した料理に傾倒したとのこと。泉鏡花の脅迫的なまでの衛生観念も同一のもので、そこからあの美学が生まれたのかと感慨深く読む。石川啄木まで読み進める。彼の食生活から読み解いた貧困のイメージとは違う、彼の借金癖と根底にある自己中心的な人物像になんだかとても感じ入ってしまう。奢ってもらった相手を別れた瞬間には憎悪し、心の中で罵倒する。自分が奢ってもらって何が悪い的な肥大化した自己と施しという行為を受けることによって自尊心を痛めつけて、自分の才を買う他人すら憎む。個人的には歌は白秋が好みだが、人間的にはものすごく自分に近いと感じるのが啄木。ちなみに白秋に放蕩の遊びを教えて後の転落を招いたのも啄木らしい。しかしこの著者は顔の美醜によっては酷い書き方するなあ。岡本かの子は三人の男を支配した妖怪みたいな書かれ方だし。梶井も写真がなければ芥川と人気を二分しただろうという描写もあるし。梶井に関しては、確かに作品と結核により夭折したイメージが強烈なので、芳醇な食生活や自虐的な厚かましさがあったというのは浮かばなかった。最後のくだりの描き方の怨念めいたものは好きだな。小林秀雄はイメージどおり。直感の批評と同じく料理についても自分の直感で断定して一流のものを好む。

むかしの味 (新潮文庫)

むかしの味 (新潮文庫)

人との縁が食や作品に結びついている。松鮨のエピソードみたいな食の出会いには憧れる。やはり味わい深いなあ池波さんは。
日常茶飯事 (新潮文庫)

日常茶飯事 (新潮文庫)

二葉亭四迷を友にし、その友人たちを友にしたという読書遍歴の始まりの描写は良いなあ。
声で魅せてよベイビー (ファミ通文庫)

声で魅せてよベイビー (ファミ通文庫)

ぬるい眠り (新潮文庫)

ぬるい眠り (新潮文庫)

恋愛小説 (新潮文庫)

恋愛小説 (新潮文庫)

よしもとばななの短編がずば抜けて良かったです。主人公の女性と亡くなった祖父が好きだったウィスキーのエピソード。なんだかボクも飲みたくなって来ました。
花の脇役 (新潮文庫)

花の脇役 (新潮文庫)

門閥でなく脇役を演じてきた方たちの生き方や旦那や芝居への想いが伝わってくるエッセイでした。坂東弥五郎さんが語る大正期の芝居小屋に出入りする怪しげな職業の話や町そのものが芝居小屋みたいな子供たちの環境の話なんかも面白かった。
二人道成寺 (文春文庫)

二人道成寺 (文春文庫)

ドラグネット・ミラージュ2 10万ドルの恋人 (ゼータ文庫)

ドラグネット・ミラージュ2 10万ドルの恋人 (ゼータ文庫)

猫に時間の流れる (新潮文庫)

猫に時間の流れる (新潮文庫)

ショートカット

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